不器用なカノジョ。





「ひろ。頑張ったんだな。」


俊輔の腕の中は温かくて。

頭の上から優しすぎる声が落ちてくる。



「ひろ。頑張らなくていいよ、もう。

我慢しなくていい。」


そう言われた途端、何かがプツッと切れた。



「……っ……っっ…」


崩壊寸前だった涙腺が完全に決壊して。

涙が次から次へと止めなく、溢れだす。



どれくらい、俊輔の腕の中で泣いていたのか分からない。

でも俊輔は私が泣きやむまでずっと、背中をさすってくれていた。


もし、健ではなく、俊輔があの頃にいたら。

私の未来はどうなっていたんだろう。


きっと、今日のように黙って私を抱きしめて


『頑張ったんだな、ひろ』


そう言ってくれたんだろう。




「…ごめん、制服…」


「…あー…まあ、仕方ない、気にすんな」


俊輔から離れると私の涙で制服がぐちゃぐちゃになっていた。



「よし、帰るわ」

俊輔は自転車にまたがって、私の頭をポンポンとなでる。


「…ちょっ!触るな!」

恥ずかしくてつい、そんなことを言う。

そうすると俊輔はいつものようにちょっと呆れた顔をして


「もう、大丈夫みたいだな」


と言って笑った。



「じゃ、また学校で」

俊輔はヒラヒラと手を振り闇の中へと消えて行く。



ねえ、俊輔。

ありがとう。


最後まで、話を聞いてくれて。

私の1番弱い部分を受け止めてくれて…ありがとう。


心の中でそう呟き


「ただいまーっ!」


大きな声でそう叫びながら私はドアを開けた…












―Side 千尋 END―







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