紅い涙
「佳代……」


名前を呼ぶと、彼女は大きな瞳を一瞬伏せ、ゆっくりとこっちへ視線を移した。


「こんばんは、下咲 理央さん」


彼女のよく通った、ハリのある声で空気が奮える。


「こ、こんばんは!」


彼女に思わず見とれてしまっていた私は、少し頬を紅潮させながら、慌てて会釈をした。
そんな私に彼女は一歩近づき、


「この事件、まだまだ続くわよ…」


と、耳元で呟いた。


ーえ。
事件が、続く…?
どういう事…?


呆然として突っ立っている私に、彼女はまだ話を続ける。


「星歌の右腕、どこに行ったのかしらね?…真っ白く、とても美しかった星歌の自慢の右腕……。でも、もぅその面影もない程に、血で真っ赤に染められてしまった…そぅ、例えるなら、」


彼女は、そこで一旦言葉を切り、少し口角を上げた。

そして、胸やけがする程、不気味な笑顔で、続きの言葉を呟いた。


「狂った化け物が喜ぶ、薄汚れた、芸術品……」
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