月姫物語
「そんなの、ただの祝いにかこつけた、花見でしょう。」










紀家の桜は、他とは数が違う。










庭園の春の美しさは、何にもたとえようがないといわれるくらいの美しさ。











母が、名のみならず、桜ノ宮などと呼ばれているのも、そこに一要因があった。












「ここ数日で、内裏をはじめいくつの花見に行って歌を詠んだと思っているのよ。もう、飽きたわ。」













「そういわれましても、仕来りでございます。」











「わたくしは、体調が優れないとでも言っておいて頂戴。」











一歩も譲らないわたくしに、女官はため息。










「こうなればもはや・・・桜ノ宮様にお頼み申し上げるほかございません。」
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