恋愛論
 





―――――そうか。

熱いのと怠いのと、急な眩暈を最後に記憶が途絶えたのを思い出した。




「あの、もう大丈夫ですから」




さすがに、この歳で【抱っこ】は恥ずかしくて、必死でもがく。

それでも彼は降ろしてくれなかった。



「駄目だ。まだ熱がひいてない」



どこまで紳士なんだろう。

まだ熱い頬が更に赤くなっていく。

本当に好きになってしまいそうだ。




店を出てタクシーを停め、私をタクシーへ乗せる。

宗佐さんは最後に、

「これ」

とだけ言って、ポケットから何か差し出した。

私がそれを受け取ると、ドアを閉めタクシーはゆっくりと発進する。





貰った物を確認すると、紙がクシャッと小さく丸められていた。

紙を開くと番号が書かれた紙に、解熱剤が包まれていた。

どこまでも優しいひと。






 
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