桜の記憶
急に怖くなって私は足が震えてきた。
「……帰ります」
「はい。気をつけて」
「ええ。秀二さんも」
「僕は、あの建物までですから」
そう言って病棟を指差す。
細く節くれだった指。
どうして今まで考えなかったのだろう。
彼は長くない。
長くはきっと生きれない。
「また明日」
「はい」
それでも、彼は明日を願う。
毎日のように私に、『また明日』と言う。
その意味を、私はどうしてきちんと考えなかったのだろう。