桜の記憶


「ばあ、いい加減サングラスとれば?」

「いいんだよ。……眩しいから」


ひ孫のその声に、
不意に結婚した年に夫が言った言葉を思い出す。


『なぜ琴子は、そんなに辛そうに桜をみるんだ?』


そう言われたこともあった。

そのうちに子供が生まれて、
子育てに追われる間に、
桜を見るのも平気になっていったけれど。

いつしか、サングラスをかけて見るようになった。

7年くらい前から。

……そうだ。
夫が亡くなった時から、
直に桜を見るのが怖くなった。

今更ながらに鮮明に初恋の記憶がよみがえり、
その記憶に胸が翻弄されるのが、
なぜだかとても怖かった。
< 25 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop