桜の記憶
「ばあ、いい加減サングラスとれば?」
「いいんだよ。……眩しいから」
ひ孫のその声に、
不意に結婚した年に夫が言った言葉を思い出す。
『なぜ琴子は、そんなに辛そうに桜をみるんだ?』
そう言われたこともあった。
そのうちに子供が生まれて、
子育てに追われる間に、
桜を見るのも平気になっていったけれど。
いつしか、サングラスをかけて見るようになった。
7年くらい前から。
……そうだ。
夫が亡くなった時から、
直に桜を見るのが怖くなった。
今更ながらに鮮明に初恋の記憶がよみがえり、
その記憶に胸が翻弄されるのが、
なぜだかとても怖かった。