桜の記憶
「ばあ、ちゃんと見ろって」
その時、ひ孫が私の顔からサングラスを外した。
「……!」
私は恐怖で目を閉じた。
美しい桜が見たいと思う一方で、
それを見るのが怖くて。
「大丈夫。ほら、綺麗だって」
「……」
夫も、そう言った。
うつむく私の手を握って、
何があったかなんて聞きもしないで、
ただ桜を指差して言った。
『琴子、ほら、桜はこんなに綺麗だよ』
胸に蘇った夫の言葉に促されて、
私は目を開けた。
日差しが眩しくて、
青い空に薄紅色の花弁がひらりと舞う。