桜の記憶

咄嗟にあの日の桜が胸に舞い戻る。

あの時伝えきれなかった想いと共に。


秀二さん。

秀二さん、死なないで。


「ほら、ばあ。綺麗だろ」


引き込まれそうになった私を、
ひ孫の言葉が現実へと戻してくれた。

先ほどまで秀二さんに似てると思ったその顔は、
今度は亡き夫と重なった。


「あなた……」

「ん? ばあ、大丈夫?」

「あ、ああ。そうか。……そうだったんだ」


あの後、ずっと私を癒してくれたのは、

桜を見れるほど傍で支えてくれたのは、夫だ。

初恋の記憶は綺麗で、儚くて切ない。

だけど、
それを思い出して微笑む事が出来るのは、
今を一緒に作ってくれたあなたがいたからだ。
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