桜の記憶
2
終戦間際、日本は貧しく、
そして慎ましやかだった。
当時私は16歳。
軍需工場で働きながら、
弟や妹の面倒を見ていた。
仕事を終え、
荷物を風呂敷に包み胸元に抱えて
小走りに家へと帰る。
きつく結んだ三つ編みが、
肩に規則的にぶつかってくる。
そして、
桜並木が並ぶ病院のフェンスの傍を通る時、
彼は必ず現れた。
「琴子さん」
独特の含みを持ったその声で、
柔らかく呼ばれる名前は、
私のものだ。
その声に胸がきゅっとなって、
それでも表情には表わさず、
私は彼に向き直る。
「こんにちは、秀二さん」
「こんにちは。お仕事お疲れ様」
「ええ。ありがとう」
そして慎ましやかだった。
当時私は16歳。
軍需工場で働きながら、
弟や妹の面倒を見ていた。
仕事を終え、
荷物を風呂敷に包み胸元に抱えて
小走りに家へと帰る。
きつく結んだ三つ編みが、
肩に規則的にぶつかってくる。
そして、
桜並木が並ぶ病院のフェンスの傍を通る時、
彼は必ず現れた。
「琴子さん」
独特の含みを持ったその声で、
柔らかく呼ばれる名前は、
私のものだ。
その声に胸がきゅっとなって、
それでも表情には表わさず、
私は彼に向き直る。
「こんにちは、秀二さん」
「こんにちは。お仕事お疲れ様」
「ええ。ありがとう」