桜の記憶
他愛もない会話。
けれども、
私はいつもここで足を止めてしまう。
家では、
小さな弟妹や母が
私の帰りを待っていると言うのに。
秀二さんは色が白く、
細身の青年だ。
色素の薄い茶色の髪が、
この時勢には珍しく
長めに伸びていて目に入りそう。
年の頃は20歳前後だろうか。
その年頃の男は、
通常ならば徴兵されて戦場へ行っている。
彼はおそらく、
病気か何かで入院しているのだろう。
そうであれば、
この病院のフェンス内に居ることも頷ける。
腕も細く、
日頃仕事で逞しく動く私の方が
太いかも知れない。
それでも、
逆三角形に見える肩から腹のラインは
やはり彼が男の人であると、
私に強く印象づけるのだ。
「ほら見て、桜が芽吹いてきている」