桜の記憶
秀二さんはそういって、
フェンス内にある桜の一枝を手に取った。
背が低い私に見えるように
その枝を下げてくれる。
フェンスの外側の私は、
その隙間から手を伸ばして
小さな花弁をチョンと触った。
「わぁ、本当だ。もうじき咲きますね」
「ここの桜が満開になると綺麗なんですよ」
「へぇ。秀二さん、見たことあるんですか?」
「ええ、去年。とても綺麗でした」
何気ない会話で、
彼がもう1年以上もここにいると言う事が分かる。