雪女の息子
「食われた、死体」
ぼそりと、デスクで秀明はつぶやいていた。休憩中に、鏡月に死体を鏡で見せてもらい、その奇怪な事に、頭を悩ませていた。
路地に横たわる女の死体。目は恐怖によって見開かれたまま。着衣に乱れは特にない。ただ血に濡れていた。血の池に沈んだ死体には足りないものがある。
肉体。下半身が食いちぎられたような傷跡を残して消えていた。あの女性は、食われたのだ。何者かによって、食われて絶命した。
どれほどの恐怖だっただろう。どれほどの苦痛だっただろう。生きたまま体を食いちぎられ、数秒の生きていた時間は、どれほど長く感じた事だろう。
秀明は強く唇を噛んだ。目をつむれば、『あの日』が思い出せる。
――父さん? とーさん?
「…………っ」
許さない。
「少し出かける。俺あてに電話があれば、連絡してくれ」
「わかりました」
この事件は自分の足で調べるしかない。警察には犯人にたどり着く事はできない。犯人は妖怪なのだから。季節外れの彼岸花は、送られた者に、より深い恐怖を植え付ける。
これが妖怪の仕業だとしたら、一人ですむとは思えない。まだまだ続く。犯人をとらえ、滅しなければ延々と続く。見つけて、滅しなければならない。
滅せなければ……。