雪女の息子
その頃で、冬矢は無事出所されていた。無実が証明されたならば喜ぶべき事なのに、表情は暗く、うつむいたままだった。
「……店に、帰るかな」
店にはきっと、恭子も烏丸も洋子もすずめも待ってくれている。帰らなくては……
その時、冬矢の目の前に誰かが現れた。暗がりで、よく見えない。
誰かは歩み寄り、街灯に照らされる。
「俺……っ!?」
照らされて、光の中で映える闇色の髪、白い肌。そして、紅い瞳。すべてが冬矢の外見そのままだ。違うところは、誰かを担いでいることだけ。
――トウヤ……ミツケタ……
聞こえる声は発音がおかしく、機械的にも思える。だがとても冷たい声。
直感でわかる。こいつが、今までの目撃証言の本人なのだと。
――ババサマノ……デンゴン
「伝言……? ババ様って、誰なんだ?」
そこに立っている冬矢は言葉を続ける。そこに質問をしても、返答がない。
――ダイジナムスメ、アズカッタ……
偽の冬矢は、担いでいる誰かの顔を見せた。
「陽ッ!!」
担がれていたのは陽だった。叫ぶと同時に走り出し、手を伸ばす。だがその手は偽りの冬矢の手によって払い落される。
勢いで体勢を崩して転んでしまって、急いで顔を上げる。そして、驚いた。
――ホシカッタラ……嫗山ニ……
そこに立っていた妖怪は冬矢の姿をしていなかった。本来の姿なのか、巨大な人骨。
知っている。冬矢はこの妖怪を聞いたことがある。人を強く恨み、妖怪の骸から産まれる妖怪。名前は……
「がしゃどくろ……」
がしゃどくろの手の中に、陽はいた。気絶しているようで、目が覚める気配がない。
最悪だ。よりにもよって、こんな強大な妖怪を相手にするのは、無理だ。
――ヒトリデ……コイ……
そう言い残し、がしゃどくろはその名の通りにがしゃがしゃと音をたてて去って行った。
「…………」
陽を、奪われた。