雪女の息子

「……えっ？」

陽は突き飛ばされて痛めた腕を押えながら、目の前の光景に瞬く。
見ず知らずの着物の女が、山姥の爪に貫かれて絶命していた。顔は醜いまま固まり、見るもおぞましい。

「骨女……！」

山姥が驚愕の声を上げる。どうして自分の部下が自分の爪で死んでいるのか。
理解ができなかった。あたりを見回す。
そこで、もう一人、憎む男の子が姿を現していた。

「やぁっと会えたな。鬼ババ。どうやろか？　自分の部下を操られた気分は」

意地の悪い笑みを浮かべていた。山姥は再び骨女を見る。
手に刻印が刻まれていた。『式鬼紙』と。

「式鬼紙。妖怪を屈服させて無理やり操るオリジナルの技や……。ええやろ？」

にこっと秀明はほほ笑む。その横には、恭子が立っていた。

「山姥よ……貴様、私の後継者をそうしたのであれば、覚悟はできているだろうな？」

そうドスのきいた声で吐き捨てる恭子は、普段とは似ても似つかぬ妖気をまとっていた。
山姥は危険を感じ、がしゃどくろに命じた。

「あいつらを始末しろ！」

「はい。ババ様……」

がしゃどくろは命令通りに、秀明と恭子、その後ろに並ぶ百鬼夜行へと襲いかかった。
だが、ゆっくりと恭子は笑う。

「鏡花水月……壱」

ふぅっと、恭子と秀明の姿が消えた。山姥は困惑するも、がしゃどくろは気にせず突進。
だがそれに洋子と烏丸が立ちふさがる。

「漆黒の風」
「狐火ッ！」

洋子の放つ神通力によって火が起こる。そこに烏丸の呼び寄せた風が吹き込み、酸素を取り入れた火は大きく成長し、炎の壁ががしゃどくろをひるませた。


「……解」

また、凛とした恭子の声が聞こえる。聞こえた時には、恭子と秀明は山姥の目の前。
驚愕する山姥をよそに、恭子はまた、今度は陽とともに消えた。
秀明はもはや人か区別もつかない冬矢に札をのせ、呪文を唱える。
そうすることで、徐々にだが、冬矢の傷がいえてきた。

「鬼ババ……。あのでかいのは百鬼に任せておいて、うちら二人と遊ぼうや」

妖しくも美しい笑みが、山姥に向けられた。