雪女の息子
「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

朝6時半。朝靄が晴れてきだした時分、
喫茶店の二階から黒髪の男が降りてきた。
その服装は、黒いスーツ、黒いシャツ、黒いネクタイ。時計も黒。鞄も黒。
黒づくめの格好はまさにカラス。

「あー、カラス待ってよ! 私も行く!」

それを追うように、今度は高校の制服に身を包んだ黒髪の少女が降りてきた。
黒縁メガネは昨日はかけていなかったが、今日はかけている。
本人が言うに、生徒会長は眼鏡にした方がウケる。――意味が分からない。

「カラスじゃない。僕には、烏丸秀平という名前がある」

「でもみんなカラスって呼んでるよ? カラス先生っ」

「そんなあだ名、僕は認めないからな」

二人はそんな会話を繰り広げながら、通学、通勤していった。
教師と生徒として、二人は陽も通う阿弥樫高校に在籍している。
二人を見送った後で、冬矢はまたテーブル拭きに戻った。

「……はぁ」

机を拭きながらまたため息。水ぶきした際の水滴が凍りついた。
冬矢はポケットを探り、携帯を取り出す。受信メールを改めて確認した。

『To:冬兄
 From:陽

 父さんはまた朝帰り。
 何してるか知ってる?』

結局、秀明は何度も冬矢が言ったにも関わらずまた帰りが遅かったのだ。
どれほどいえば秀明は分かるのだろう。考えるだけで気がめいる。

「恭子、すずめのエサやり頼む」

「了解……」

しかし今は仕事。
開店まで二時間半。急がねば。

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