雪女の息子
「…………。学校、行ったか」
少しの睡眠から目が覚めた秀明は家を見回した。
娘、陽の姿はない。どうやら学校に登校したようだ。
自分の食事が用意されていた。
『今日は弓道部の部活動があり、遅れる』
と書かれたメモも置かれている。
こうして律儀に知らせてくれるという事は嬉しいのだが、
それでも今朝の言葉が、頭の中で強く反響していた。
しばらく秀明は食事を目の前に感傷に浸っていた。
陽が産まれたとき、自分は中学校を卒業したばかりだった。
子供が子供を育てる。周囲からの冷たい目を受けながら、それでも育ててきた。
高校入学を蹴って、働きながら陽を養ってきた。
距離が出てきたのはいつからだろうか。
――プルルル……
しかし、物思いにふける秀明を一本の電話が現実に引き戻した。
秀明はその電話をとった。かかってきた番号は、勤め先だ。
「もしもし、こちら花宮」
『雑誌『one life』編集部の白峰です。編集長、あの……』
「出勤しろと?」
電話の向こうは若い女だった。秀明より6つほど下。
この時間に会社から電話があるとすればだいたい予想がつく。
女――白峰の言葉を奪い、秀明は続ける。
「飯食ってからな。あと、来週の占いの結果も持ってくる」
『あの、編集長』
「ん?」
出勤はするが、陽の作ってくれた食事をとるのが先だ。
せっかく作ってくれたのだから、食べなければ申し訳ない。
そして出勤の際に占いコーナーの占い結果を持っていくと添えた。
その時に、遠慮がちな声が帰ってきた。
『占いの占い師さんって、誰なんですか? 編集長しか知らないんですよね』
「秘密。それじゃ」
質問内容は、その人気コーナーの占い師について。
的中率があまりにも高いので、誰だという問い合わせが殺到しているらしい。
だがその占い師は秀明しか知らない。秀明が占い師に直接交渉して結果を聞くという形。
しかも秀明はその占い師の事を編集部にも話していない。
疑問に思うのは当然かもしれないが、秀明は語らずに電話を切った
「さて、飯でも食うか」
そうして改めて秀明は食事を始めた。