部屋替屋
「えーっと、いやここら辺。ほらあそこじゃない?」
右手に持つ地図と見比べながら言うと、その場で歩を止める。
立派な垣根と門を構えた道場がそこにあった。門には豪快な字体で書かれた生徒募集のポスターが貼ってあり、古そうに見える看板には山田道場と、達筆な書体で書かれている。
「山田さん…六郎さんだったよね。」
看板を見上げながら呟く。やはりちよは同意の言葉を発さなかったので、いつも通り独り言になる。
「来た。」
ちよの声に促され視線を下ろすと、門のそちら側から道着を着た男がこちらへ向かって来ていた。