王子様は寮長様




「姫は取られちゃったみたいね。」



蒼斗が下駄箱に着くと、奈緒が腕を組んで立っていた。


蒼斗はそんな奈緒を無視しようとする。



「野上少年。積極的ね。明らかに椎菜ちゃんが好きって感じ。」



周りに誰もいないことをいいことに、奈緒は続ける。



「いいの~?姫、取られちゃうよ~?」

「何がいいたい?」



蒼斗は少しイラッとして振り返る。

奈緒はもう笑っていなかった。



「あんたたち、何かあったんでしょう?」

「奈緒には関係ない。」

「別に理由を知るつもりはないわ。でもね…」



奈緒は蒼斗を見つめる



「椎菜ちゃんは苦しんでる。そしてあなたも。」



蒼斗は奈緒から目をそらす。



「何がそうさせてるかは知らないけど。一度、何もかも忘れたら?」



蒼斗はハッと顔をあげる


「見ていてじれったい。椎菜ちゃんが取られるの黙って見てるの?」

「……」

「ただの“蒼斗”として、椎菜ちゃんにぶつかってみなさいよ。」

「ただの…“俺”として?」

「そう。あなたが、いつも望んでいる事でしょう?」



そう言い捨て、奈緒は帰って行った。



ただの“蒼斗”として?

何もかも忘れて?



それが出来たら、どんなに良いだろうか……。



蒼斗は自分の両手を見つめていた。






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