王子様は寮長様
父親…?
「ーー…もう、何も言わないで下さい。」
野上くんは悲しげに小さく微笑んだ。
食堂脇の談話室。
私は野上くんを捕まえて、伝えなくてはいけないことを伝えた。
「わかっていても諦めきれなかった。それくらい椎菜先輩が好きだったんです。それだけは知っておいてくださいね。」
「うん…。ありがとう、野上くん。」
ハァとため息をついて、野上くんは笑顔で言った
「コンクール、頑張りますから。この悔しさを注いでやります。」
「うん。見に行けないけど、応援してる。」
「…幸せになってね。先輩。まぁ、心配ないかなぁ~」
急におどけた口調になって、自分の首筋指差した
「見えてるよ?僕じゃない、もう一つのキスマークが。」
「!!」
咄嗟に手で隠す。
野上くんは豪快に笑い声を立て、去っていった。
その背中を見て、小さく笑みがこぼれる。
こんな私を好きになってくれて…ありがとう、野上くん。