―優しい手―
どんよりと曇った灰色の空
白く水しぶきを立てる漆黒の様な 荒々しい海
こんな日に相応しいのかもしれないけれど…
まるでこの世の果てみたいに 水平線上には何もない
そんな景色の中に僕達はいた
小さな陶器の入れ物に納まってしまったシュウの遺骨
“愛恵…そろそろシュウを自由にしてあげよう。”
“シュウ?”
久しぶりに聞く彼女の声
“そうだよ。もう、この中は狭くて窮屈だよ。だから、シュウを自由にしてあげよう…”
冷たい砂浜に座り込む愛恵
“シュウは死んだんだ…。そろそろ、解放してあげよう…?”
絢の胸の中にいるシュウの遺骨を持ち 蓋を開けて愛恵に見せる
辛かった
彼女にとってシュウの存在が どれ程のものなのか… たった一ヶ月ほどの間で、嫌というほど思いしめされた
そんな彼女にシュウの死を改めて知らせる事が どれほど辛いか…
“ほらごらん…この砂みたいに綺麗な灰がシュウなんだよ”
僕の掌からサラサラと流れるシュウの遺骨は 少しずつ風に流されていく