―優しい手―
この冷たい景色の中で 僕達はどれだけの時間を過ごしたのだろう
絢も 僕も ただ、静かに黙って白い飛沫をあげる波を見ていた
愛恵は目を覚まさない
いっそうの事ならば、このまま永遠に眠らせてあげたい
だけど、そう思う反面
彼女には強く生きて欲しかった
“絢。もう、寒いから、車にお入り…”
“私は大丈夫。ハヤトさんこそ…大丈夫ですか?”
“ありがとう。僕は大丈夫だよ。だけど、このままじゃあ愛恵の体温が奪われてしまうね…?”
“私、車の中見てきます。何か、羽織れる物があるかもしれませんから…”
“頼むよ…”
僕は 腕の中で眠る愛恵の身体をギュッと抱きしめ、絢を見送った
そして、ゆっくりと白い陶器の入れ物から シュウの灰をつまみ サラサラと指からこぼした
“シュウ…ごめんな。…僕じゃあ、彼女は救えないのかな?”
突然…
強くて冷たい風が吹き、荒い波が僕達のそばまで押し寄せた