―優しい手―
―シュウ―
―シュウ
私を地獄の様な日常から救い出してくれた男
私は今だに シュウという人間がどんなヤツか知らない
ヤツは必要最低限の事しか話さない
年は幾つで 何処に住んでいるのか 名前だって『シュウ』って言ってるけど本当のトコロは分からない
ヤツは私に小さな部屋をあてがった
そこには テレビと簡易式のトイレと小さな机と布団と それから、数枚の可愛らしい服や下着の入った衣装ケース
ピンクや黄色のレースやフリルの服が数枚入った衣装ケースを見た時 宝箱だと思った
家にいる時には いつもダボダボの兄の服を着させられ 私の服は一着だって買ってもらった事はなかった
衣装ケースを見て喜ぶ私を見て シュウは私の頬っぺたを軽くペチペチと叩いた
その時でも シュウの手は温かった
それから毎日 部屋にやって来ては、カーテンを開け 朝・昼・夜の三食分の食事を作り、私を風呂に入れた
風呂と言っても 台所の流し台の中だったけど、それでも私には幸せだった