夜が明ける前に
オモイダスハギンイロ
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薄く雲が拡がっている空は、気分を落ち込ませるには十分なものではないだろうか。
のそのそといつもの定位置にまで歩を進めて、ごろりとコンクリート張りの床に身を委ねた。
うっすら日光が滲んだ銀色の空に対面していると、思い出すのは銀の髪をした彼のこと。
「…死神でも、泣くんだな」
ぽつりと呟いた言葉は宙に浮いて溶けていく。
あの日、ギンジは泣いていた…というより、涙を流していた、と言う方がしっくりくるのかもしれない。
声を震わせず
綺麗なまでの無の表情で、ただただ頬を濡らしていた。
私はその涙が、ひたすらに美しいと思った。
「…会いにきてよ。傘持ってさー…」
ギンジに初めて会った時から一週間経った。
その間、一度も彼は現れていない。
…一度会っただけなのに、それが寂しいと思うのはおかしいのだろうか。
曇り空を見つめながら、銀の死神を思うのはおかしいのだろうか。
難しいことはよく解らないけれど
私はたぶん、彼に恋をした。