夜が明ける前に
「「やっぱり卵焼きは甘いのが一番だな。」」
「…そりゃどーも。」
朝から貪るように出来立ての卵焼きを食べる私と父を見て、兄は呆れたように味噌汁を啜っている。
「「…ぬう。」」
皿に乗っている最後の卵焼きの一切れをお互い箸で挟んで睨み合う。
――そこは父として大人の余裕をぶっこいて娘に譲るところだろうが。
――いいや。この卵焼きだけは渡さん。
目だけで会話する私達を見かねてお椀をコトンと置いた兄は
「…俺のやるから取り合うなよ、みっともねぇ」
はー、と長い溜息をついて私のお茶碗に自分の卵焼きを一切れ置いてくれた彼は、今私と牽制し合っている父とは比べ物にならないくらいに大人だと思う。
しかし、牽制に勝てなかったのを妙に悔しく思い、真ん前の席に座っている父にキッと視線を送って
「…次は負けないからね?」
と悔し紛れにそう吐き捨てると、父は嘲笑うかのように箸をこちらに向けて
「俺に勝とうなんざ十年早いわ。」
とニヤリと笑った。
絶対負けん!と誓いをたてながらも卵焼きを口にして破顔させた。
「…馬鹿だろ、お前等。」
兄がこう呟くのも無理はない、と少し思った。