夜が明ける前に


***


藤元と相変わらずのゆるい会話をしながら家路を歩いて。


家に帰るといつも通りの仏頂面の兄が台所に立っていて。


夕飯が出来た頃に父が丁度良く帰ってきて。



そして、おかずを取り合う私と父の姿に兄が苦笑して。





何を迷っていたんだろう。
今送ってる日常を大切にするって、あの日決めたのに。


答えはすぐ近くにあるのに、突き付けられた宣告に惑わされてしまった。








あの時ギンジに知らされたのは、死神が見える理由ともう一つ。




私に残された猶予のことだった。






あと、一ヶ月程だと言っていた。




死を待つ期間としてはあまりにも長く、

全ての想いを大切な人達に伝えるには短すぎる時間だった。





だから、焦ってしまったんだ。






――何かしなければ




――何かを残さなければ






――…私が、生きていたという証を。













漠然とした焦りが頭を支配していた。




でも、それは答えであって



答えじゃなかった。









真実はいつも、至ってシンプルだったんだ。













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