夜が明ける前に
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藤元と相変わらずのゆるい会話をしながら家路を歩いて。
家に帰るといつも通りの仏頂面の兄が台所に立っていて。
夕飯が出来た頃に父が丁度良く帰ってきて。
そして、おかずを取り合う私と父の姿に兄が苦笑して。
何を迷っていたんだろう。
今送ってる日常を大切にするって、あの日決めたのに。
答えはすぐ近くにあるのに、突き付けられた宣告に惑わされてしまった。
あの時ギンジに知らされたのは、死神が見える理由ともう一つ。
私に残された猶予のことだった。
あと、一ヶ月程だと言っていた。
死を待つ期間としてはあまりにも長く、
全ての想いを大切な人達に伝えるには短すぎる時間だった。
だから、焦ってしまったんだ。
――何かしなければ
――何かを残さなければ
――…私が、生きていたという証を。
漠然とした焦りが頭を支配していた。
でも、それは答えであって
答えじゃなかった。
真実はいつも、至ってシンプルだったんだ。