夜が明ける前に


自室のベランダに出て夜空を見上げると、昼間とはうって変わって雲一つない。


満天の星空は不思議と自分を見守ってくれているようで、自然と頬が緩む。


少しぬるい風が頬を撫でて、季節が変わろうとしていることを実感した。






「…まだ寝てなかったのか。」






響く、甘い声。


煌めく、緋色。



声に振り向けば、ベッドに腰を下ろしたギンジがいて、それだけのことに胸が締め付けられるような気持ちになった。



「…また傘持ってる。」



柵に凭れたまま、膝に乗っている畳まれた黒傘を見てふふっと笑うと、彼の瞳の光が細くなる。



「…死神は皆持っているんだ。なければ日中動けないからな。」


「へえ…陽の光が駄目とか?」



吸血鬼みたいだな。
日光に当たると砂になる、みたいなのを映画で見たことがある。


死神もそうなのだろうか。


腕を組んで考えていると、いつの間にかギンジは目の前にいて、相変わらずの無表情でこちらを見下ろしていた。




やっぱり綺麗な顔してるな…。

藤元も顔が整ってて、カッコいいというよりは綺麗という感じだけど、ギンジには敵わないだろうな。


そんなことを考えながら見上げていると



「…部屋に入れ。」



それだけ言うと、私の手を緩く握って中へ促した。



< 33 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop