夜が明ける前に
自室のベランダに出て夜空を見上げると、昼間とはうって変わって雲一つない。
満天の星空は不思議と自分を見守ってくれているようで、自然と頬が緩む。
少しぬるい風が頬を撫でて、季節が変わろうとしていることを実感した。
「…まだ寝てなかったのか。」
響く、甘い声。
煌めく、緋色。
声に振り向けば、ベッドに腰を下ろしたギンジがいて、それだけのことに胸が締め付けられるような気持ちになった。
「…また傘持ってる。」
柵に凭れたまま、膝に乗っている畳まれた黒傘を見てふふっと笑うと、彼の瞳の光が細くなる。
「…死神は皆持っているんだ。なければ日中動けないからな。」
「へえ…陽の光が駄目とか?」
吸血鬼みたいだな。
日光に当たると砂になる、みたいなのを映画で見たことがある。
死神もそうなのだろうか。
腕を組んで考えていると、いつの間にかギンジは目の前にいて、相変わらずの無表情でこちらを見下ろしていた。
やっぱり綺麗な顔してるな…。
藤元も顔が整ってて、カッコいいというよりは綺麗という感じだけど、ギンジには敵わないだろうな。
そんなことを考えながら見上げていると
「…部屋に入れ。」
それだけ言うと、私の手を緩く握って中へ促した。