夜が明ける前に
お門違いなんて百も承知だ。会いに来なければいけない理由なんてないのだから。
でも言わずにはいられなかった。
それはたぶん、彼に特別な感情を持っているから。
なんだか居たたまれなくなって俯いたまま返事を待つものの、一向に帰ってこない。
そろりと顔を上げると、ギンジは小難しい表情をしてこちらを見下ろしていた。
「…え。どうしたの?」
初めて見た表情に、少し驚きながらも声を掛けてみる。
すると、再びかくっと首を傾げて
「…何かが渦巻いている。」
「へ?なにが?」
「…よく解らないもの。」
「……なにそれ。」
あれ?こんな会話、前にもしたような……
ふとそんなことを思いながら視線をギンジに戻すも、彼はまだ小難しい顔をしている。
それが妙に可笑しくて、つい笑ってしまう。
「ギンジにも解らないことがあるんだね。」
へらりと笑うと、つられたのか彼も表情を緩めた。
…うん。ギンジの顔、これが一番好きだな。
口許に笑みは載っていないけど、目が優しげに細くなる。
この表情を見ると、すごく落ち着く。
「…時々、来ていた。この部屋に。」
「……へ?」
予想していなかった言葉に、つい間抜けな声を出してしまった。