夜が明ける前に
ギンジは、間抜け面で見上げる私の髪を一束掬うと、それに一つ、口付けを落とす。
…………え?
突然のことに思考は急停止した。
視界いっぱいには銀色。
肩より少し下のあまり長さのない私の髪。
口付けを落とすにはかなり近付かなければならず、私とギンジの距離はほぼなくなっていた。
「…来るたび、こうしていた。眠っていたから気付かなかっただろうけど。」
伏し目がちに呟く言葉に、顔が熱くなる。
何だろう、コレ。
胸が苦しい。
身体が、熱い。
何かが、溢れる……
「……何故泣いている?」
「………え。あれ?」
ギンジの声に引き戻された私の頬は濡れていて。
拭っても拭っても、止まらない。
なんで?
なんで泣いているんだろう。
訳が解らず一生懸命に目許を拭っていると、その腕をやんわりと制された。
ひんやりとした感覚が手首に伝わる。
緋色の瞳と視線が交わると、それは弧を描いたように細くなった。
そして火照った瞼に冷たさが乗る。
何度も
何度も。
その感触が心地好くて
気付けば涙は止まっていた。