夜が明ける前に
「加代、行くぞ。準備出来てんのか」
「ん。ダイジョブ。」
ソファーに置いておいたリュックを背負ってニカリと笑って見せると、頭に手を乗せて、こくん、と小さく頷く兄。
先に出とけ、という兄に従い玄関前の外で待っていると、さわさわと爽やかな風が頬をくすぐった。
アパートの三階から感じる五月中旬の朝は少しひんやりしていて、少し暖かい。
太陽が近くて遠いような、そんなよくわからない感覚が好きで、この時期になると一番気分が良くなる。
ぐぐっ、と伸びをして、ふと階下の駐車場に目をやると…あれ?と首を傾げたくなる光景が飛び込んできた。
燦々と晴れているのに、傘を差して立ち竦む人がいる。
日傘なのだろうか?
それにしても異様に大きく思うのは私の勘違いだろうか。三階というあまり高くない高さから眺めても体が見えない程の大きさだ。
手摺に顎を置いて、ぼんやりと眺めていると、黒傘がゆらりと動いた。
――――…あ。
見えた。
傘から垣間見えた人物は、驚く程に奇妙な姿をしていた。
大きな黒の布に身を包んだ、長身の男。
服じゃない。
本当に大きな布にくるまっているような、そんな無造作な姿をしている。しかも裸足だし…
追い剥ぎにでもあったのだろうか?
そんな時代錯誤なことを考えてしまうくらいに、その姿は異様だった。