夜が明ける前に
「ただいまー」
「おー、おかえり。」
リビングに入ると、ソファーに新聞を広げた父が座っていた。
ぼすん、と隣に腰を下ろすと、父は目だけでこちらを見る。
何か言いたそうだ。
「…どうしたの。」
なかなか口を開かない父にしびれを切らして尋ねると、渋々といった様子で新聞を畳んだ。
「……おまえ、体調は大丈夫なのか?」
「なんで?」
「いや…今日、かなり運動しただろ。気分悪くなってないか?」
眉を下げて聞いてくる父にドキリとした。
「今更いうことじゃないでしょー!全然大丈夫だし」
へらりと笑いながら膝を抱える。
そんな私を見て父は眉を潜めた。
「………加代」
「今日は、楽しかったんだ。」
明るい声を出して言葉を遮った。父のことだ、説教が始まるに違いない。
その前に言って置かなければ。
「父さんが笑ってて、兄ちゃんと京香さんがラブラブで、藤元とバカやって。今までで一番楽しくて、幸せだった。」
本当に、楽しかったんだ。
何度も何度も涙を堪えた。
それほどに嬉しくて、幸福感が溢れて。
一瞬だけ
死にたくないと思ってしまった。
…でも、それは叶わない。