りんごを剥く手


しばらく
観察していると
あなたがゆっくり
目を開けた。


窓にかかった
カーテンが揺れた。
桜がまた舞い込んだ。


何回もこの光景を
みていたはずなのに、
あなたがそこに入るだけで
何て新鮮な場面に
なるんだろう。


あまりに
桜と馴染んでるから
そっと髪に手を
あてられたことに
気付かなかった。


「桜...」


あなたが私に向けて
発した初めての
言葉だった。


胸がズキンと痛んだ。
今度はあなたの触れた
髪一本一本に意識が生まれて
体が熱くなった。


硬直してると
あなたが私をのぞき込んで
目を細めて笑ったよね。

やっぱりあなたの目は
私の予想した通りだったから
私はすぐ目を
そらしてしまった。


今思うともったいなかった
気もするけど、
あれ以上みてたら
惹かれすぎて今頃
おかしくなってるから、
私は間違ってなかったって
言い張るね。


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