もしも願いが叶うなら
顧問の一声で楽屋は一瞬で静かになり
みんなあたしの方を見た
「はい。何ですか先生?」
尋ねつつ、先生の尋常じゃない雰囲気に
心臓がうるさくなっていくのを感じた
さっきの大量着信が悠くんの
悪ふざけじゃないのかもと
嫌な予感ばっかり大きくなった
「落ち着いて聞いてね?」
「はい。」
「お母さんが、亡くなったそうよ。」
えっ?
「は?」
意味が分からなかった
「とにかく病院に行きましょう」
そこから先は覚えていない
どうやって病院に行ったのかも
自分が先生に何と言い返したのかも
みんながすぐに学校に戻ったのかも
何にも知らない。
あたしは気付いたら白い部屋にいた
泣き崩れるたくさんの人の中心に
お母さんは寝ていた。
きれいな寝顔だった。
悠くんは泣いていなかった
ただずっとお母さんの左手を
大事に包むように握っていた
あたしもマネして右手を握った
すごく冷たかった
それくらいしか覚えていない。