私は嘘で出来ている。

「新菜、そう固くなるなよ。今から緊張してると身が持たねぇぞ」


橋本さんがクラッカーをつまむ。


「そうよ、そもそも今日指名が入るかどうかも分からないんだから」


アキラさんもグラスに氷を入れながら、穏やかに言う。


それでも新菜ちゃんは落ち着かない様子だった。


「だって~…」


「リラックス&宣伝代わりに歌でも歌ってみたら?私が後押ししてあげる」


「そうしなよ、初舞台も今日やっちゃおう」


私も便乗して、カラオケに人気のJ‐POPを入れた。


イントロが流れると、アキラさんと新菜ちゃんがマイクを持った。


「皆さ~ん、今から新人の新菜ちゃんが歌いまっす!指名よろしくね~」


新菜ちゃんの歌はなかなか上手だ。


お客の受けも上々。


でも指名には繋がらない。


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