恋時雨
「行くな…初香っ」

呼んだって、何も変わらない。
それなのに。
それなのに、止まらない。

「俺はまだ…初香に…初香に…っ」

約束を、果たしてあげられてないんだよーー…。

言う前に、初香は去った。
追いかけることもできず、安時は泣き崩れた。

雨が、安時の涙と共に頬を伝う。

「うわぁぁぁぁっ」

泣き叫んで、どれだけの時間が経っただろう。

雨は止まない。
涙も止まない。


「降り続けばいい。もっと…俺の涙をさらって行ってくれ。お願いだ。時雨よ…」

濡れた髪から、滝のように流れる水滴。
< 15 / 19 >

この作品をシェア

pagetop