恋時雨
「ありがとうございます、藤原殿。ですが、一つ頼み事があるのですが…」

隆教は微笑したあとに、いつになく真剣な眼差しを中年の男に向けた。

「なんだ?」

その眼差しに、中年の男にも緊張が走る。

「私の妹…初香(ハツガ)を、ここで舞わせて頂けませんか?」

隆教は、困ったように笑った。
それに中年の男は、頷く。

「いいぞ。だが、なぜだ?」

質問すると、隆教の顔は爽やかな笑顔へと変わった。

「いやぁ、ただ舞わせてあげたかっただけですよ」

何か裏があるような言い方で隆教は言って、最後に一礼した。

「では、仕事に戻ります」
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