恋時雨
木が多く茂る森の中に、安時は座った。

仕事をする気にもなれない。

初香に会いたくて。


「俺は全く、何してるんだか…」

安時は、そう呟いてため息をついた。

「…たまにはいいじゃないか」

独り言をブツブツ言っていると、美しい歌声が聞こえた。
つられるように歩いて行く。

サラリと長い黒髪。
細い腕。
しなやかな動き。

「初香殿ーー…」

安時は、声に出して口をふさいだ。
だが、既に遅かった。
初香が、安時を見つめていた。

「あ…安時様?」

覚えていてくれたのだと、安時は嬉しくなった。
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