溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「…吉井さんは…父とはどういう…」

今日ずっと心に引っ掛かっている疑問。
聞きたいけれどなかなか切り出せなかった事。

父と知り合いだったらしいと、そう知ってからずっと。

「俺は、小山内さんが以前働いていた設計事務所の後輩なんだ。とは言っても、小山内さんが辞めて何年かしてから入社したから直接一緒に事務所にいた訳じゃない」

注文してたビールや料理がカウンターに並べられる中で、思い返すように話す吉井さんは、少し寂しそうに見える。

隣で黙っている私に気遣うような視線を見せて

「俺は、小山内さんに憧れてこの仕事に就いたって感じで、事務所の先輩に無理矢理頼んで小山内さんに会わせてもらった。
マスコミやらに注目されて思うように仕事ができない時に…」

「…え…」

「コンクールの大賞の影響力は凄くて、事務所を辞めて独立した事も非難されたし…」

「非難…?どうして?」

吉井さんの言葉に反応してしまう。

「…コンクールに参加する前から事務所辞めるのは決まってたらしいけど、大賞とったから調子にのって独立したんじゃないかって…バッシングの嵐だったらしい」

苦々しく、眉を寄せて。

相当納得いかないんだろう…口調も重い。
当時の父の状況についてはあまり知らない私には、吉井さんから伝わってくる様子だけで想像するしかないけど、父がかなり苦労していたって事はよくわかる。

「もともと個人の家をお客様と納得いくまで相談しながらじっくりと設計する事を望んでて、事務所とも円満に話しあいをしてたのに…。
マスコミは容赦ない」

言い捨てた吉井さんは、手元のビールを一気に飲み干すと、苦しい気持ちを隠すように息を吐いた。

「俺は…小山内さんの才能を尊敬してた。
目標にしてたし追いつく努力もしてた。
なのに…。

コンクールに参加したせいで…大賞をとってしまったせいで…。

小山内さんは背負わなくてもいい窮屈な人生を背負う事になったんだ」
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