溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
突き放すように話す口調に、私は何も言えないまま。

父がコンクールで大賞をとった事でもたらされた苦労を初めて聞いて、驚く以上につらい想いが沸いてくる。

「それでも、小山内さんの仕事ぶりは変わらなくて。
お客様と自分の作品に誇りを持って地道に努力してたから、しばらくしたらマスコミからの注目も離れてったけどな」

「父は…苦しんでたんでしょうか…?
大賞をとった後…」

恐る恐る尋ねる私に、くすりと笑った吉井さん。

え?くすり…?笑った?

「受け入れて、笑ってたよ」

「え…?」

どう返事していいのかわからないし言葉の意味も掴めない。
自信なさげに見てる私の視線をまっすぐに受け止めてくれた吉井さんは、諦めたような声で。

「そう、全てを受け入れてた。
透子が助かった事の代償なら望むところだって

透子が生まれてきた事を感謝してるってさ。

それが小山内さんの精一杯の気持ち」

「代償って…感謝って…」

聞いて戸惑うばかりの単語を聞かされて、更に私の気持ちは辛くなる。

私の手術がうまくいくよう願掛けとしてコンクールに参加して大賞をとって。

私の命と引き換えにしたものの大きさを知った私の心は震えてる。

吉井さんから視線を外して、黙り込むとあらゆる感情が私の中を揺らしていく。

生まれてから父と過ごした記憶もなく声だって知らない。

好きな食べ物も趣味も、音楽なら何を聴くのかも何にも知らない。

それどころか、小山内竜臣という人が私の実の父だと知らされたのは、本人が亡くなった後。
父を知る事ができなくなってから。

それなのに。

私に知らされる事実は、父が私を愛してたって事ばかり。
私の為に人生を変えてしまった事ばかり。

どうして…。

そんなに私を大切に思ってくれていたのなら、会いに来てくれなかったの?




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