溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
その後、二人の間の空気はまったりとしていて、それほどの量を飲まずにじわじわと酔ったみたいに。
ただ、父や弥恵さんの事を話題に話していた。
とは言っても私は聞くばかりで、ほとんどは吉井さんが話していた。
父はお酒に弱かった事。
英語が堪能だった事。
ハンバーグが大好きだった事。
近所の草野球チームで監督をしてた事。
細かいピースを小出しにしていく吉井さんの話を聞きながら、まるでまだ父が近くで笑っているような錯覚に戸惑ってしまう。
私もハンバーグは大好き…。
特にチーズがのってる
ジューシーなハンバーグ。
何を聞いても、やっぱり思うのは。
「会いたかった…」
ほとんど独り言。
低い声。
「ちゃんと、話したかった。建築っていう同じ道でご飯食べてるって話したかったな…」
全てはもう手遅れ。
父が亡くなった今では、どんな想いも届ける事はできない。
父が愛した人達から聞ける事だけが全てで、私は受け止めるだけ。
遅いんだ。全部。
父がそっと注いでくれていた愛情に包まれている事に気づかないままに過ごしていただけで、もう遅い。
「…小山内さんは、透子が自分と同じように建築の仕事に就いた事が自慢だったよ。
色々調べては、透子の関わった物件見て回ってた」
「え…嘘…っ」
「本当。これ、見てみな」
吉井さんは、隣りの席に置いていた鞄をしばらくごそごそとした後、思わせぶりな顔を私に向けると
「小山内さんの宝物だ。じっくり見て泣いてろ。
幸せ過ぎてどうしようもなくなるぞ」
私の前に置かれたのは、一冊のファイルで、厚さが結構ある…使いこまれた物。
どんと置かれて、泣けと言われて。
一体何?このファイルは何だろう…。
手を伸ばす事も躊躇しながら吉井さんを見ると。
「見てみろ」
顔をそのファイルに向けて急かしている。
今日見た中でも一番に思える真面目な顔で…。