溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
A4サイズのファイルを、ゆっくり手に取り開くと、最初に目に入ったのは。

「…っこれ…」

吉井さんを見ると、切なげに口を歪めている。

「透子がメインで設計に関わった最初の物件」

低い声が少し震えてる。

「べた褒めだったよ。
話すことはなくても、俺の好きな設計だって。
親子だって感じて泣けてきたって…」

「…父がそう言ったんですか?」

「…そう。まさしく血の繋がった透子の父親」

ファイルの一番に貼られている写真は、五年くらい前に、初めて私がメインで設計した物件。

外壁が淡いオレンジ色の二世帯住宅は、お客様にも気に入ってもらえた記念すべき物件。
入社してからずっと、先輩達に教わりながら励んでいた仕事が実を結んだ気がして今も忘れられない。

「…でもどうして?」

どうして私が手がけた物件を知っているんだろう。
かなり大きくて世間にも注目を浴びるならまだわかるけれど、私が担当していたのはずっと、個人のお客様で。

社内でも、私が設計した物件に詳しい人なんていない。

それなのに。

ファイルをめくっていくと、どのページにも私が関わった作品の写真ばかり。
入社してすぐに、研修の一環で参加したプロジェクトの写真もある。

それは、相模さんが仕切っていた私立の学校の建設。

そこまで、私が参加した作品を知っている事が信じられなくて何も言えずにいるだけ…。

新しいページをめくる度に私の鼓動は跳ねて、まるでその音しか聞こえないような…。

「…すごい…私も忘れてたような物件もある」

半泣きになってる声に気づくけど、吉井さんに気をつかう余裕もない。

どうしてこんなに詳しく私の作品を…?

「今俺が働いてる設計事務所の所長って、相模さんの奥さんの葵ちゃんをずっと面倒みてた人なんだ…。で、お酒、入ってる時に小山内さんが透子の事を言ったのがきっかけ」

「は?…どういう…?」

突然の話が私にはよくわからなくて思わず聞き返した。

葵ちゃん…?
相模さんの奥さんがどうして。

戸惑っている私に、吉井さんは、優しく笑って…

「葵ちゃんが間に入ってたんだよ…」

静かに話してくれた。

< 175 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop