溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
「…濠さんには言ったのか?」

「…」

何気なく。…でも、私の返事を確実に欲しがっている喬の言葉が私の体を一瞬にして固くしてしまう。

手元のグラスを意味なく握りながら答えに詰まっていると。

「やっぱり言ってないんだな」

はあ、と深いため息をつく喬。
私だってため息をつきたいんだけどな…。

「黙って引っ越すなんて、恋人っていう以前に人としてどうかと思うぞ。…透子の事かなり大切にしてるだろ?
10年も付き合っててさ、出張から帰って来たら黙って引っ越してたなんて、俺なら人間不信になるな」

「…わかってる。
濠が驚いて…きっと会社にまで探しに来るのも予想してる…」

「でも透子は家だけでなく勤務地も変わってるんだよな。
ま、車で10分くらいの距離だからすぐに見つかるだろうけど」

普段穏やかな喬が、珍しく声を荒げている状況に、私はただただ小さくなって聞くばかり。

わかってるんだ…。
私がしでかそうとしているのは限りなく半端な事で、何一つプラスにはならなくて…濠を傷つけるだけだろうって。

「もし濠さんが会社に透子を探しに来たら、本社に案内して新居だって教えるから。
今回ばかりは透子の味方はできないからな」

はっきりと大きな声で言い切る喬の声が、貸し切りにして騒いでいる和室に響いて…。

騒ぎに騒いでいた同期達の視線が集まる。

静かな空気が漂って…
どうしていいかわからないまま。

ただ続く、今は問題なく動く心臓の音を複雑な想いで聞いていた…。
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