溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
心当たりはあった…。

私の着替えを入れている病室に備え付けの引き出しに、母さんが入れてくれてる薔薇の香りの石鹸。

『家にいるみたいでしょ?』

いつも自宅のお風呂で使っているお気に入りの石鹸を、病院生活が少しでも安らかに過ごせるようにと入れてくれた石鹸。

それほどきつい香りではないけれど、衣服にほのかに移って穏やかな気持ちになる…。

『側に来たってすぐわかる』

濠から送られる文字が、温かくて嬉しくて。
きっと私の顔は赤くなって…。
どう答えていいのかわからないまま突っ立ってた。

『あーあ。こんなかわいい子からかってどうするんだろ。
濠ってもてるんだからいい加減にしなきゃ。
その気にさせてどうするのよ』

え…?

どう聞いても冷たく意地の悪い言葉に驚いて…。
言った女の子と、聞こえていない濠以外はみんな呆然としていた。

濠は、多分その女の子の口の動きには気づいてないはずで、一瞬にして変わった空気の意味がわからず首を傾げていた。

私の手をとって、じっと何かを問う瞳は心配気に揺れていた。

『大丈夫だから…』

私はそう言いながら…。

涙がこぼれるのを我慢できなくて…。

濠の向かいの女の子…。
冷たい言葉を言った女の子をちらっと見て…。

緩く笑っている…。

その強気な顔が私には我慢できなかった。

きっと…濠の事が好きなんだ。
私よりもずっとずっと前から…。

だからあんな冷たい言葉を。





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