溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
その文字を見せた後、冷たい雰囲気を纏う身体全体で私から背を向けてしまった濠。

『あ…』

一瞬にして私と濠の関係が変わってしまった現実をしばらく受け入れられないままに、その背中を見ていたけど。

拒絶するだけの意思表示しか感じられないその背中は、私にこれ以上近づくなと無言の声…。

ゆっくり…ゆっくりと濠に背を向けて、なんの感情も身体に流さないまま、とにかく足を動かした。

濠とこんな風に会えなくなるなんて思わなかった。
言葉を交わせない分、表情や二人の距離感を大切にした優しい時間をようやく生み出せるようになったって…こっそり嬉しくて。
ほんの少し調子にのってもいたのに…。

彼女もいるし…。

濠は私に背を向けたし…。

私には入る事のできない明るい世界を持っているし…。

もう、濠にとって私は必要ない人間なのかな…。

やっぱり私は誰にも…本気で欲しがってもらえない運命なのかな…。

そう考えて…頬をつたう涙を手で拭いながら…

はっと気づくと…。

『痛い…』

とくとくっと大きく跳ねた心臓が、私の身体全体に痛みを走らせた…。

足元からくずおれそうになりながら振り返ると、私の様子に驚いた濠の友達が慌てて立ち上がったのが見えた。

その友達の動きにつられて私に視線を投げた濠の顔が驚きで歪む…。

胸を抑えて倒れる私の遠くなる意識が途切れる瞬間。

『透子っ』

椅子を倒して駆け寄る慌てた濠の顔と…。

初めて聞いた濠の声。

濠の悲痛な顔と想像してたよりも少しかすれた声を感じながら、私は意識を失った。
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