溺愛結婚!?~7つの甘いレッスン~
『この香りを探してた』

ぐっとつかんだまま離さない濠は、少し息も上がっていて。
相当必死で私を掴まえたんだとすぐにわかった。
私から微かに香るばらの香りに気づいて夢中で私の腕を掴んだと、後で聞いた。

『…その声…これから
いっぱい聞かせてもらえるの…?
病院じゃ…聞けなかったから、新鮮だね』

一気に15歳に戻ったような私の心はドクドクと跳ねて跳ねて。
私の視線を捕らえたままの濠に、恥ずかしく笑うしかできなかった。

入院していた時にはちゃんと聞く事ができなかった濠の声…。
ずっと待ち焦がれていた大好きな人なのに…。
大人になったとはいっても、昔見つめ続けたその顔をまた見つめる事ができて、懐かしい気持ちが殆どなのに。

聞き慣れていない濠の声に、まるで今この瞬間にもまた。

濠に恋したような高校生のような気持ちになった。

『…俺にも聞かせろ。
透子の声…。
俺の腕の中で鳴く声もな…』

そうニヤリと笑った濠に抱き寄せられて、周りにいた私の友達はみんな呆然として立ち尽くしていたけれど、私にはそんな事より。

濠と偶然再会できたこの店に、今ちゃんと来ていて良かった…すれ違わなくて良かったって…。

それしか考えられなかった。

私を抱きしめて、顔を私の肩に埋めたままの濠を私も抱き返して…。
恋しか考えられない若者のように浸っていると。

濠の背後から

『店出てしばらく右に歩くとホテルあるから続きはそっちに行ってから楽しめよ』

とからかうような声。

はっとした私に優しく笑いかけてくれた男性。

それが、濠の親友の健吾さんだった。

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