彼。
何であろうか?そうは思うものの、早く家に帰ってパパロを日干さなければならない。その黒い粒を無視するより他なかった。




だがその粒はユラユラと動いた。
人間なぞとんと見ない場所であるので、マサキは獣の類であろうと思った。
だがしかし、それの遠吠えは獣のそれと言うにはあまりにもお粗末であった。うぉんうぉんと、雄叫びとは到底思えないしかしだからといって、悲鳴のようなキンキンとした甲高い鳴き声でもなかった。
獣の鳴き声というよりは、人間のような柔らかい泣き声であった。




マサキは不意に、立ち止まらなければならないような気がした。
谷を越えようと脚に入れていた力を解き、底へと飛び降りた。
百メートルくらいはあったであろうか。長いしかし一瞬の時を経て、マサキは谷の底に立っていた。












そこに、彼はいた。
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