童話少年-NOT YET KNOWN-
涓斗は、少しだけ寄せた眉と細めなかった右目に、僅かな焦りを隠した。
幼少の頃、それこそ年齢だって今の半分もないような頃から見知った仲だ。
当然、紗散の怒りのツボも、本気で怒るとどうなるかも、よく分かっている。
余計な口を出した自分か少なからず悪いのだろう、ということも。
「何か言い残したことはありませんか涓斗くん」
「何? 敬語が怖いんだけど!」
「言いたいことはそれだけですか。くだらねぇ人生でしたね。それではさっさと死に至れ」
「ちょ、待てお前!」
滅茶苦茶な言葉遣いのまま間髪入れずに、握り拳を突き出す。
その正拳突きで公式な試合も含め一体何人の挑戦者が鼻から赤いものを噴いて倒れたのか、多過ぎて数えることなどとうにやめてしまっていた。
そしてそれは主に自分や弥桃との喧嘩で鍛えられたのだろうということも、彼は知っている。
しかし涓斗とて、伊達に彼女の幼馴染みを9年近くも続けてはいない。
勢いに任せられた拳を受け流した次の瞬間には、どこからか頑丈な携帯型の棒(いわゆる特殊警棒というやつだ)を取り出し、切れのある脚技を受け止めていた。
「……物騒な人達だな……」
弥桃は二人を止めるでもなく、ただその見事な攻防戦を横目に、呑気に傍観に徹するだけ。
わりと小さい頃から、よく見慣れた光景だ。
こんな危険で凶暴なやり取りでさえ、弥桃にとっては日常に他ならないのである。
過激なドッグファイトを今日も今日とて繰り広げる二人を眺めて、彼は自分の世界の平和を実感するのだった。