童話少年-NOT YET KNOWN-
「2人は」
「あっちの物陰」
紗散が最小限の動きで指した方向を見やるが、ここからでは姿を確認できない。
しかし、移動して合流しようかと、弥桃が紗散に囁きかけたとき、やや遠い錆びたロッカーの影で、動くものがあった。
ふらりと立ち上がって、斜め上を見上げたまま、呆然と立ち竦む人。
「雉世………………!?」
ぎょっとしたような紗散の声も、顔だけ出して引き留める涓斗の制止も、耳に入っていないようだ。
まるで、亡霊でも見たような顔をして、雉世は口を開いた。
「………………鬼道………………」
思わず彼の目線を追った3人の目にも、“それ”が見えた。
吹き抜けになった場内の2階部分、真っ黒に錆び付いた手摺の向こう、真っ暗なはずがなぜかぼんやりと明るい、そこに。
1人の老人が、薄く笑みを浮かべて立っていた。