童話少年-NOT YET KNOWN-
弥桃が近寄り、顔の辺りまで持ち上げてから地面に叩き付けると、手元のものからは音が止んだが、出所のわからない不協和音は相変わらずあって、首を回した。
中二階にあったもう一つに紗散が気付いて、蹴り落とす。
広い空間には何も聞こえなくなったが、今度はそれがなんとなく気持ちを逆撫でた。
「……さっきの」
特殊警棒を握ったままの右手のじっとみていた涓斗が、口を開いた。
「話。本当だと思うか」
この質問に、意味はない。
直感だが事実だとわかっていて、しかしそれを認めづらくて、仕方がない。
紗散が渇いた声で、知るかよ、と呟いた。
感情が本当に限界まで昂ったとき、彼女がこんな何もかも圧し殺したような無表情を浮かべるのを知っている弥桃と涓斗は、何も言えなくなった。
9歳だった、あの時──病院で、とても見られたものじゃない両親の遺体を前にした時も、紗散はこんな顔をしていたのだ。