童話少年-NOT YET KNOWN-
背後に感じた冷ややかな予感と、鼓膜を揺らす穏やかな声色に、表情筋が引き攣ったのを、瞬きのしづらさで知る。
「あ、いらっしゃいませー」
「こんにちわ。」
接客業者の手本のような気の良い笑顔のおばさんに、見事な外面で挨拶を交わす雉世。
そして彼らはその言葉に、耳と、雉世の真意を疑った。
「きびだんご、まだありますか? すごく美味しいって聞いたんですけど」
「あらま、それがねぇ、あと1箱なんだけど……弥桃くん達も欲しがってるのよ。どうしましょ」
おばさんは、再び困ったように眉尻を下げる。
当然のごとく紗散は、抗議の声を上げた。
「お前、後から来て何言ってんだよー」
「やだな、そんなに怒らないでよ。2人があんまり楽しみにしてるみたいだったから、食べてみたくなって……あぁ、そうだ。ならこうしない?」
不意に彼女の腕を引いて耳元に顔を寄せた雉世は、驚いて反応の遅れた弥桃や涓斗を尻目に、触れそうな近さでなにかを囁いて、距離を戻す。
そして何を聞いたのか紗散は、彼女にしては珍しい思案顔を、数秒後、崩した。
そして目を細める、あの狂気的な笑みを浮かべ、2人にだけ聞こえる大きさで二言、三言、呟くと。
「……へぇ。いんじゃない」
「ふぅん……舘端くんも、そんな顔するんだ」
「ちょうどいいじゃん、決着つけようや」
涓斗は口角を吊り上げ、そして、普段面倒事には関わりたがらない弥桃までもが、愉しげな、それでいて毒気を含んだ笑いを溢す。
ぼそぼそと、あくまで、何がなんだか解らず4人を見比べるおばさんには、聞こえないような声量で。
彼らの間で、今、火蓋は切って落とされたのだ。
たかが、吉備団子のためだけに。
「争奪戦、ね。やってやろうじゃんよ」