童話少年-NOT YET KNOWN-
希望溢れる春に思い出すのは10ヶ月も前のこと
「…………舘端。お前は何だ。何なんだ」
「えっと。人間……だったらいいのにな」
「ぎゃははは、願望かよ! 意味わかんねー!」
「静かにしろ央神! お前も何だ! 何なんだ!」
「はよーっス、おわっ。ちょっと薄いセンセェ、どいてくださいよ。あっ薄いって言っちゃった」
「あぁぁぁもう薄いよ! なんで薄いかわかるか!? ス ト レ ス なんだよ!!」
「先生、もう1時間目始まります」
微妙に遅刻した弥桃を叱る碓井の脇腹に、紗散が横槍を深々と突き立てて、涓斗は相変わらず校則を一つも守っていなくて、碓井の悲痛な怒鳴り声が廊下に木霊する。
そこへ少し前から参加しはじめた雉世は、特にどちらか側について絡むわけでもなく、ただその騒ぎを力業で鎮める。
もう、毎朝やらないと落ち着かなくなっているのかもしれない。
現に、弥桃がチャイムに間に合った日は、碓井はクラス全員に見事に拍子抜けした表情を披露したし、紗散が元気のない朝は、ホームルームをいつもより早く切り上げてつまらなそうに職員室へ戻っていったし、涓斗がきちんと朝から学校に来て居眠りもしない日などは、放心したように1日を過ごしていた。